2023/11/13

#文藝賞短篇部門応募してみた という企画をしたので、参加作品を読んで感想を書く『愛しきみと』たびー氏

もう企画参加者現れないとおもっていたよ……よかった……

感想二作品目です


ネタバレを含むため、ぜひ作品を読まれてからわたしの感想へ進んでいただければと思います

第60回文藝賞短編部門応募作品:愛しきみと

作者:たびー



以下、わたしの感想



 書き出しのていねいな状況描写が、主人公である山崎教授の置かれている状況や心境を切実さをもって伝えてくれていると思いました。矢ノ浦くんの無邪気な若々しさと涙ぐむ様子がその対比にもなっていて、山崎教授が抱くたとえようのない喪失感を描写しながらも、どこかあたたかみを感じるのがとても印象的です。それがこの作品の色にもなっていると感じます。

 五年経ったと言えど、たかが五年。亡き妻・和歌子さんの影がそこかしこに見える暮らしぶりの中、本人がどう感じていたにせよ、アコちゃんが山崎教授の支えとなっているのは疑いようもなく、和歌子さんが「アコをお願いね」と言い残した気持ちもわかる気がします。できる範囲で奥様の遺言を実践しつつ生活しているロマンスグレーの少し猫背になってしまった教授とか最高ですね。猫背かどうかは知りません。

 わたしはオルフェウスとエウデュディケを思い出したのですが、このお話にはヨモツヒラサカの方がしっくり来ますね。見んな! の説得力が違うw

 たぶんこれは「作者の人そこまで考えてないよ」案件だと思うのですが、香りの描写が対比されていておもしろいなと感じました。山崎教授が生活している場では美味しそうなカレーの香りが強調され、和歌子さんと会えたヨモツヒラサカでは、香水と思われるベルガモットの香りがする。黄泉の国の食べ物は口にしてはいけないと言われていますし、和歌子さんが旦那さんに長生きしてもらおうと考えているのが、香りの変化を通しても読み取れるのでは。まだまだ、みんなとカレーを食べて生きていきなさいよ、と。すみません、妄想です。この邂逅のあと、山崎教授はもう少し背筋を伸ばせるようになったのではないかな、と感じます。妄想です。

 和歌子さんとの逢瀬が、倒れたことによる幻覚的なものであったとしてもいいと思います。本人がまっすぐに歩くための励みになったであろうことは想像に難くないですから。そしてわたしもアコちゃんの恋、成就させてあげたかったなあ……。でも、そんなちょっとだけのビターさも、幻想的ながらしっかりとした手触りのあるお話となるスパイスだと感じます。わたしもイケオジカレー食べたい。

たびーさん、読ませてくださりありがとうございました!



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